命にかかわらないトラブルは…


山に登るのが初めての子がほとんどという120人ほどの子供を連れて歩くのは一体どういうことか、ちょっと想像する余裕もなく当日がやってきたわけだけど、最も度肝を抜かれた事件(?)は、7合目の少し上で狭い登山道に座って休憩していたとき起こった。
先生が「ここは狭いし、ゆっくり座れる場所がないから、自分でいい場所を見つけて休憩するように」と指示、みな思い思いにリュックを下ろし、その上に座ったり、リュックを膝に抱えたり、狭い場所で工夫して休んでいるようだった。
そのとき、私の目の前の女子が、「あっ」と言ったと思ったら、手に持ったペットボトル(貴重な飲み物が入ってる)を斜面に落としてしまった。
「あーあ」と思い、よく見ると、藪の中2mくらい下が平になっていて、そこにあったので、「私が拾います」と言って降りて拾った。(こういう藪は慣れてるし)
それを子供に渡した瞬間、ちょっと離れたとこで「ズザザザーーッ!」とすごい転がり音がしたので、(大変だ!子供が落ちた!)とドキドキした。
けど、落ちたのはリュックだった!
リュックでも、大変だ。行動食から着替えから、すべての装備を失ったら、たとえ山小屋泊でも子供なら不安だろう。
でも先生は「ムリだ、拾うのはあきらめよう」と言っていて、かなり下の方にいた遭対協のH隊員が「俺が行きます」とロープとハーネスを出した。
どこに落ちたのかはわからない、懸垂下降して、あたりをつけて探すしかない状態。
先生は「リュックの回収は時間がかかりそうだし、全員で待っていたら小屋に着くのが遅くなるので、子供だけ先に歩かせましょう。I君(リュックの持ち主)とHさんと小屋の人(小屋から様子を見に来てくれたバイトのT君)だけ残ればいいですね。」と言われたのだが、私はとっさに頭の中で(I君を残したら、みんなに追いつくのにあせってバテてしまうかもしれない、リュックが見つからないかもしれないし、まだ7合目だし、もうすぐ昼だし、みんなと一緒に連れて行って、私のお弁当とか、他の子のおにぎりとか分けてあげればいいし)と考え、先生に「I君も連れて行きましょう」と言ったのだった。雨が降っていたことも大きかった。
そのときはそれしか考えつかなかったけど、歩きながら、(自分が落としたリュックを、他の人が危険を冒して拾いに行っているということを、見せて、リュックを落としたことがどれだけ大変なことかを思い知らせるべきだったかもしれない。それで、みんなに追いつかなくても、大人2人がついているし、一人だけ遅れて小屋に着いても明るいうちにつけただろうし、先生が言うようにすればよかった)と思ったがあとの祭り。
先生は山の経験は少ないかもしれないが、子供をよく見ているので、それにあわせるべきだった。こっちは一人の遭難者も出さずに、無事家に送り届けるお手伝いをする、ということばかりが先行してしまい、大事なことを見失っていた。
リュックは崖の10mほど下に落ちていたそうで、子供たちが8合目に着く頃届いた。
ほんとは広いイブリの頂上でお昼のはずが、朝からなんだかんだと時間が遅れたことで狭い8合目(といっても7合目よりはるかに安全)での食事となったが、全員楽しそうだった。
回収に行ったH隊員は大変だったが(たぶん慣れているので全然平気だったに違いないが)命にかかわらないトラブルは、子供にとっても引率者にとってもいい勉強だと思うことにしよう。
次からは全員リュックに気をつけて休んでいたし。